② 親鸞聖人の出家
「親鸞聖人繪傳」専修寺関東別院 所蔵
1181年の春のころ、まだ9歳という幼さで親鸞聖人は出家します。9歳といえば、小学校3〜4年生にあたる年頃。いくら時代が違うとはいえ、なぜこれほど早く出家することになったのでしょうか。残念ながら、具体的な事情については何の記録も残されておりません。一般に門徒の間では、立派な家柄に生まれたのに幼くして出家をした背景には、なにか悲しい出来事があったのではないかといわれています。その悲しい事情についてはさまざまな説が唱えられていますが、現在は次の説が有力になりつつあります。親鸞聖人の父である有範(ありのり)卿は、当時の貴族社会の中ではうまくいかなかったようで、失脚に近い状態で早くに隠居し出家したため、息子である親鸞聖人を羽振りの良かった兄の範綱(のりつな)卿に預けました。しかしそこで範綱卿に、将来政界で出世するのは難しいだろうと判断され、それに代わる別の道として出家させる流れができたのだろうとする説です。絵伝で出家の情景を描いた場面を見てみます。
庭先には桜が咲きみだれる春の盛り。華やいだ風景の中で、可愛らしい親鸞聖人が剃髪式に臨んでいます。その様子を見る範綱卿の顔にもやさしい笑みが浮かびます。このように出家が華々しく和やかなものとして描かれているのは、絵の作者が親鸞聖人の出家を喜ばしく思う気持ちをあらわしているのかもしれません。もしこの幼な子が出家することがなかったら、私たちの知る親鸞聖人は存在していなかったのですから。