最後の親鸞 吉本隆明
キリスト、マルクス、夏目漱石、柳田国男、高村光太郎…。数々の思想家、知識人について書いてきた吉本隆明。戦後最大の思想家と呼ばれる彼は、鎌倉時代最大の思想家、親鸞にも魅了された。浄土真宗の家に生まれたこともあって、自然と親鸞を好きになっていった。初めて親鸞について書いた学生時代以後も興味を持ち続け、いくつかの書を著した。本書は、そんな吉本隆明がずっと魅せられてきたテーマ「最後の親鸞」に迫っていく。最後の親鸞とは、阿弥陀如来の本願力によらずには極楽往生できないとする「絶対他力」を思想の中核に据えた後の親鸞を想定している。よりどころとしたのは、親鸞自身の著述「教行信証」ではなく、親鸞が弟子に告げた言葉が詰まった「歎異抄」。ほんのわずかな違いで法然の思想から離れ、仏教思想を解体していくまでのプロセスが緻密に描き出される…。この「最後の親鸞」の他に、親鸞の伝説、和讃、教理までが網羅され、さまざまな角度から親鸞の思想を突き詰めていく本書。「親鸞の著作を眼前にして言いたいことは、すべてこの本に言い尽くされている」と吉本隆明は語る。それは宗教という領域を越え、善悪といった人間の普遍的なテーマにまで踏み込んでいく。2人の知の巨人が、時空を超え、ここに交差する。
筑摩書房 / ちくま学芸文庫 1000円(税抜)