⑥ 信行両座
「親鸞聖人繪傳」専修寺関東別院 所蔵
1206年、親鸞聖人が34歳の時のことです。法然上人の弟子たちが一堂に会すことがありました。そこで親鸞聖人は弟子たちに対し、法然上人の教えを正しく理解しているのかを問うための、言わば抜き打ちテストを行います。次のような質問をしました。「信不退(しんふたい)の座と行不退(ぎょうふたい)の座の二つの座敷に分けた場合、みなさんはどちらに座りますか?」信不退とは、極楽浄土に往くために必要なのは信心であるという考えのことです。一方、行不退は、念仏を唱えることで極楽へ往けるという考えです。日頃念仏が大事だと聞いているのに、何をいまさら信と行に分ける必要があるのだろうと戸惑いながら、400人近い弟子たちは行不退の座に着きました。一方、信不退の座に着いたのは、信空、聖覚法印、熊谷入道直実(くまがいにゅうどうなおざね)の3名のみ。やがて親鸞聖人も信の座に着いて、信の座は合計4名。いよいよ、法然上人の番です。多くの弟子たちがどちらの座につくのかを固唾を飲んで見守ります。「私も信の座へ着きましょう」法然上人もまた、信の座へ着いたのでした。このとき、行の座を選んだ弟子たちは皆一様に驚き、自らを恥じ、後悔したといいます。この信行両座の逸話から言えるのは、親鸞聖人は法然上人の教えを正しく継承した数少ない弟子の一人であったということでしょう。