⑯ 熊野詣
「親鸞聖人繪傳」専修寺関東別院 所蔵
親鸞聖人の門弟の平太郎は、主人の命令で熊野詣(和歌山県南東部にある熊野三山に参詣すること)をしなければなりませんでした。しかし、阿弥陀仏の本願を信ずる自分が熊野権現(神)を拝むのはいかがなものかと心配します。そこで親鸞聖人のもとを訪れ、その是非を尋ねたところ、心配はいらないと教えられます。親鸞聖人は平太郎に、熊野権現は阿弥陀仏が日本の衆生を救うために仮に神の姿になって現れたものだから、参詣をしても問題ではない。また、阿弥陀仏にお参りするのだから、その道中でことさらに肉食を断ったり、穢れを避けたりする必要はない、といいました。この教えにしたがい、平太郎は熊野へ参ります。道中で人の死骸を見かけた際には穢れに染まることも構わず、その死骸を葬り、特別に禊をすることもありませんでした。これは、当時の熊野詣では絶対に禁じられていたことでした。案の定、熊野へ到着してからの夢に権現が現れ、穢れを避けなかった平太郎を叱ります。すると、そこへ親鸞聖人が現れ、権現に対して「この男は、私の教えによってお参りする念仏者です」と言ったので、権現は恐れ入って、逆に平太郎を礼拝したといいます。このお話から、二心なく阿弥陀仏を信じつづけることの大切さ、また人間味あふれる親鸞聖人の教えの尊さを垣間見ることができるのかもしれません。