笑う親鸞 伊東乾
教えを民衆に口頭で解き明かすという意味の「説教」。6世紀の仏教伝来以来、説教は仏教の布教手段だった。著者が着目したのは、浄土真宗における説教「節談(ふしだん)説教」。高座に上がった説教師が言葉に抑揚(節)をつけ、歌うように語る。例え話を多用し、人情話を織り交ぜ、笑いと涙を誘うわかりやすい内容となっている。現代の落語や講談などの諸芸能も、この節談説教が母体である。そんな節談説教を聴きに、著者は全国各地の寺を巡る。「教行信証」、和讃などから親鸞の言葉をおもしろおかしく解説する僧侶の話に、会場は笑いに包まれる……。もともと親鸞が教えを説いたのは、文字の読めない庶民だった。そんな庶民にとって難しい仏教の教えにいかに興味をもってもらうべきか。親鸞は、その伝え方、話し方、そして、言葉の意味よりも、言葉の「響き」が大事であることを理解していた。楽曲のように、歌詞の内容より先にメロディーの美しさで人々の心をつかめるか。「南無阿弥陀仏」という言葉にも、意味を超えて心に届く「響き」がある……。音楽的視点から親鸞を紐解くユニークな本書。いままで見えてこなかった新しい親鸞に出会える1冊である。
河出書房新社/ 2000円(税抜)